ツィータの修理
この機種で最も多い「高音が出ない」対策を行います。


このミニコンポのドライバとして、ツィータにはエレクトロスタティック型が使われています。構造的には非常に簡単かつ興味深い物で、MHC-J970EXに採用されているのは、透明な極薄のセロファン状のダイアフラム(振動板)に高電圧を与えつつ、それを2枚の金網(電極)で挟んでバイアスを掛け、駆動するものです。

このツィータの保護は周囲のパンチメタルのみで行われており、それにより外部から埃やゴミが簡単に入ってしまいます。
そして、ダイアグラムと電極との間にそれが入り込むと、正常にバイアスが掛からず、結果として「高音が出ない」状態となるようです。

※以下では、この対策としてツィータを分解し、清掃する方法を紹介します。このダイアフラムは非常にデリケートな素材であり、雑に扱うとすぐに破れ、機能を果たさなくなります。よって修理作業には全ての行程において細心の注意が必要となります。
このツィータはメーカの保留部品として\2万程度とのことでしたが、現在では供給終了になっているそうです。

*この修理について、らいちゃん様のBBSでアドバイスくださったNC35さんに感謝いたします。



ツィータを分解

ますスピーカ本体を分解します。
前面のスピーカネット穴4カ所のゴムをマイナスドライバ等で外し、その中にあるネジを外します。
また背面4カ所のネジも外します。
するとこのようにパッカリと前面パネルを分離できます。
(写真はツィータを外した後のものです)
ツィータにバイアスを掛ける3本の電線を外すために、端子に被さっているホットボンド状の接着剤をそれぞれ取り除きます。そしてハンダで線を外してユニットのみに分離します。
さらに、六角ネジをすべて外します。
※この作業が最も神経を使うところですので慎重に行います。無理にやるとダイアフラムが破損し、取り返しの付かないことになります。

はじめに、ここでやろうとしているのは「ユニットを固定しているプラスチックを2つに分離する」ということです。この分離作業では、背面に来るプラスチック(ナット側の、上部にSONYのシールが付いた)側を外します。結果的には2枚下の写真のようにします。

まず、写真のように金網をある程度強く(完全に固定されているように)押しながら、2枚のプラスチックの間にマイナスドライバや手で、隙間をあけます。
つぎに、その隙間がツィータをぐるっと一周できるように、爪などで隙間を広げていきます。
接着剤などは使われていないとは思いますが、かなり固いですので力が必要です。

なんども書きますが、このダイアフラムは針で刺すと間違いなく破れるほどのデリケートな素材ですので、ここで無理をして2枚のプラスチックを分離しようとすると、破れる可能性があります。
プラスチック全体がフリーになれば、あとはこのように上に持ち上げて、矢印の方にスライドさせます。
するとこのように分離できます。前面のプラスチックは、ダイアフラムおよび電極と一緒になってます。無理すればさらに分解できますが、ダイアフラムを破る可能性が非常に高いためあきらめます。
かなりのゴミが付着していることが分かります。


ツィータを洗う

中性洗剤などを水で薄め、布や筆などを使って(ティッシュ厳禁)洗っていきます。電極は2面ありますので、両面とも洗います。
高電圧が掛かるため吸い寄せた汚れが結構ありますので、2回ぐらいに分けて丁寧に洗った方が良いでしょう。とはいっても、それほど神経質にならずに洗った方が汚れは落ちやすいです。

濯ぎも重要で、いろんな方向から水をあてて、ダイアフラムと電極との間にある汚れを除去します。
そのあとは天日乾燥です。
金属の電極とプラスチックとの間が密着していますので、この間に入った水は紙などを挟んで隙間を作り、乾燥を促します。
ダイアフラムと金属の電極との間にも水が入っていますので、同じようにして乾燥させます。

完全に乾燥させるにはまる1日程度掛かるでしょう。高電圧が掛かりますので、くれぐれも生乾き状態で駆動させないようにします。

取り付け・対策
取り外しの際にここの絶縁材を外してしまったので、取り付ける際にはもう一度ホットボンドなどを塗り直す必要があります。
スピーカボックスのツィータ周りの埃も除去しておきます。
アンプ改造時の2.2kΩの抵抗は外します。
そして早速聴いてみましたが・・・
電源投入直後は全くと言ってよいほどツィータから音が出ません。そこでツィータの金網両面に割と強く、様々な方向から息を吹きかけると徐々に高音が出てきます(恐らくダイアフラムと金網との間にある、清掃時に残ったゴミの乾燥物を吹き飛ばすためにバイアスが掛かり始めるのだと思います)。この作業はこれ1回だけで十分で、次回電源を投入したときには直後から高音が出始めます。

やはり立ち上がりは遅いようで、電源投入10分程度で元気が出てくるようです。

しかし、片側のツィータがどうにも出力が弱いです。
アンプ側とツィータ側(高圧回路含む)のどちらが原因か判別するために、WaveGaneで10kHzのサイン波を発生し、それをアンプに入力しツィータ・アンプ出力の振幅をオシロで観測します。
すると両chとも同じ値でした。となればユニットか高圧回路が原因ですが、多分ユニットの気がします。
そこで、そちら側だけもう一度掃除します。
乾燥後、3時間ぐらいエージングしましたが両chのバランスがとれ、問題ないようです。

しかし、ツィータの出力が若干弱いような気がしてなりません。 メーカはどのぐらいの出力で設計したのか、経年や取り切れてないゴミでどのくらい出力が低下しているか分かりませんが、低音がボコボコ目立って、ソースダイレクトで聴くにはちょっと好みではありません。

ということで、やはりアンプ側を改造してツィータ・アンプの利得を上げるしかなさそうです。
これについては、パワーアンプ考察に続きます。

それにしても、ミニコンポクラスでエレクトロスタティック・ツィータを採用してしまうとは驚きです。
しかし、そもそもこのユニットは構造上、ゴミや埃に弱い物です。環境によっては2年もしないうちに特性不良が起こるのではないでしょうか。と仮定すれば、経年による特性不良を視野に入れ、その対策(ゴミ対策)を一切行わない設計をするS*NYは流石だと思ってしまいます。
素人考えですが、実際はどうなんでしょう。

ところで、ユニットの金網がダイアフラムと接着している付近の埃がどうやっても取れませんでした。これはその接着剤に埃がついてしまっているからです。
もしかするとこれによりバイアスが均一に掛からず、思ったより高音が出ない原因の1つなのかもしれません。(この辺もアレなんでしょうかね)





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